信頼関係がなによりですね。
数年前のこと。
普段とても親しくしているYさんから私の携帯に電話がありました。
「おう、○○子(私の名前)、便器を取替えようと思ってな」
「あら、水漏れでもしたと?」
「温水洗浄便座がこわれたったい。で、便器と温水洗浄便座取替工事込みで○万○千円っていう広告を見たっちゃけど、おまえんとこは、そのくらいの値段で工事できるとや」
「あ〜、うちではそんな安くできんねえ。うちで取り扱っとう商品とちょっと違うけん」
「安いのは不良品やろか」
「それはよくわからんけど、見積して商品の確認して、納得できるなら、それでいいんやない」
「そうや。それなら広告出しとった会社に電話してみよう」
「うんうん、それで、なんかわからんことがあったら、また私に相談して」
「おう、ありがとう、すまんな」
Yさんは、うちがリフォーム業を営んでいるのをご存じなので、よそに頼む前に仁義を切ってくださったのだと思います(^^)
それから約1ヶ月くらいして、お会いしたとき、私はYさんに尋ねました。
「どげんやった? 便器取替え、した?」
「おう、電話したらすぐに来てくれたけんね、値段も広告と同じやったし」
「それは良かったね。取替えたトイレ、見ていい?」
さっそく家に上がり込んで見学。
広告どおりの商品に入れ替わっていて、ピカピカの便器でした。
「温水洗浄便座もちゃんと動きよう?」
「おう。なーも問題なか」
Yさんご夫妻は、とっても満足されてるようでした。
それから2年後・・・
出先でばったり、Yさんの奥様に出会いました。
なぜか奥様は困り顔。
「便器のね、便座が冷たいのよね・・・」
「あら、リモコンの設定温度がゼロになってるわけではないんですか?」
「うーん、それは違うの。奥の方はあったかいのに、手前の方が冷たくて、夜なんか、とてもヒヤッとするの」
「じゃあ、故障かなあ。取付けたお店に電話されました?」
「電話しても直らないんじゃないかしら・・・メーカーに修理してもらったら、やっぱりお金がかかるわよえ」
「そうですねえ、2年たってるから、もしかしたら部品交換になるかもしれないですねえ」
「つけた時は安くていいと思ったけど、これじゃ結局同じことねえ・・・」
なんともお返事しがたく、「とりあえず便座が冷たいなら、使用後に便器のふたを閉めるようにしておくと、奥の方のあたたかさが便座の冷たい部分に伝わるかもしれないですね」とアドバイスしましたが・・・
取付た直後はあんなに満足されていたのに、表情がガラッと一変、すいぶん悩んでらっしゃっる様子に、私も少なからずショックを受けたのです。
もしかしたらYさんは、販売店に電話しにくいんじゃないかなって思って。
理由はわかりません。
でも、もし私の会社で便器を取替えていたら、気軽に「便座があったかくならんよ〜。修理してやらんね」って言えたはずなのになって。
このごろよく思います。
長く使う物、メンテナンスが必要な物は、やはり買う側と売る側に信頼関係が必要だなと。
なぜそんな当たり前のことをブログに書いているかと申しますと、私自身が最近、ある買い物をした時に、しみじみとそのことを実感したからです。
その買い物とは・・・
電動バリカン。
バリカンといっても、人間の髪の毛を刈るバリカンではなく、植木を刈るバリカンです。
これまでは剪定バサミをつかって人力でぱちぱち剪定していたのですが、筋肉痛で肩や腰がパンパンになるので、ついに念願の、電動、それも充電式のバリカンを購入することに決めたのです。
まずネットで検索して、どのような物があるのか調べ、だいたいの市場価格をリサーチしてから、ホームセンターに向かいました。
この時点では、ホームセンターで購入する気満々でした。(すぐにでも欲しかったので)
そして陳列棚に向かうと、あるご夫婦が、店員さんから電動バリカンの商品説明を受けていました。
耳を傾けていると、電動バリカンにもさまざまな特徴があって、ネットでちょっと調べたくらいではわからないような細部にわたる説明がされていたので、違いがとてもよくわかりました。
バリカンの刃には片刃と両刃があること、刈った枝を受け止めるトレーがついているものいないもの、又、メーカーによって重さが違うこと、両手で操作できるようにハンドルがついているものいないもの・・・
説明を聞いていたご夫婦は、店員さんからすすめられた軽いタイプのコード式電動バリカンを買うことに決められましたが、私が欲しいのはコード式ではなく充電式です。コード式のものより値段が2〜3倍高くなります。なまじ説明をきいてしまったがために、自分にとってどれが向いているのかわからなくなり、
「これは安易に買ったらあとで後悔しそうだ」と、かえって慎重になってしまいました。
迷ったときは買わないことに決めているので、取りあえずホームセンターをあとにして、ふと、あることに気づきました。
「そうだ、○○鉄鋼に相談しよう!」
○○鉄鋼とは、私の地元の農機具販売店です。以前、友人のすすめで、ここで家庭用耕耘機を買いましたが、それ以来縁がなかったので、すっかり存在を忘れていました。
さっそく電話をしてバリカンについて尋ねたら、「カタログ見にいらしてください」と言われました。
ホームセンターとは違って、たくさんの商品を店頭に置いているわけではないので、当然カタログを見ての注文となるのでしょう。
仕事が終わって店を訪ねた私は、いろいろと説明を受けた末に、当初私が考えていた値段よりは若干高めの機種を取り寄せてもらうことにしました。
もっと安いものはいくらでもあるけれど、性能、機能、操作性の良さを考えたら、予算オーバーしても自分にあった機種を選んだ方が、長い目で見たらいいということが、店員さんの説明でわかったからです。
3日後、充電式バリカンはやっと私の手元に届き、次の日曜日、私ははりきって植木の剪定をしました。
ところが、ガッ!
と音がして、バリカンがまったく動かなくなったのです。
細い縄のような物が刃にはさまって、指で引っ張ったくらいでは取れません。
取扱説明書を見ながら、工具を使って刃をばらそうとしましたが、はさまった縄を取るためには、取扱説明書に書いてある分解のしかたではダメそうです。
あきらめて、○○鉄鋼に電話しました。
日曜日なんで、休みかも・・・と思いつつ電話したのですが、「もしもし」と言ったとたんに、「ああ、○○さん」と名前で呼ばれてびっくりしました。
担当の方は、私の携帯番号を、すでに登録してくださっていたようです。
バリカンが動かなくなったと伝えたら、
「ちょうど他の社員がそのへんをまわっているんで、電話して修理に行くように言っときますね」
と言ってくれました。
さすが。
さすが○○鉄鋼。
耕耘機を買うときに友人が「いいよ」とすすめてくれたのには、こういう理由があったのですね。
小一時間で修理の人がきてくれました。
刃をばらすのはそう難しいことではありませんでしたが、私の手元の工具だけでは足りなかったようです。はさまった縄を取り除き、分解した刃をもとに戻してオイルをスプレーしてもらうと、バリカンはまた元気よく動きました。
すぐにきてくれて、チャチャッと修理してくれて。
これが本当の「地域密着サービス」よね〜と、感動しました。
そして思ったのです。
もしあのとき、ホームセンターで買っていたら、いまと同じようにバリカンが動かなくなったとき、どうすれば良かったんだろう。
取扱説明書に書いてないメンテナンスは、メーカーか販売店に頼むしか方法はありません。
まずはホームセンターに持っていって、修理できるかどうか聞くことになるのでしょうけれど・・・
そのとき、便器を取替えたYさんのように、買った相手が気軽に相談できない関係だったら・・・
やっぱり、物を売る、ということ、買う、ということは、否が応でもサービスを売る、買う、ということに繋がっていくのだなと思います。
とくにメンテナンスが必要なもの、修理をしながら長く使用するものを購入するときは、値段よりも、プロからの提案やアドバイスを重視し、アフターサービスを鹹味した上で、どこから買うかを決めなければ、結局自分が不便な思いをするんだなと。
このたび、身をもって確信いたしました。
いままでは消費の時代でした。
でもこれからは違います。
道具は手入れして、大事に使う時代に入っています。
トラブルがあったとき気軽に相談できる店があると、本当に便利だし安心です。
次もまた、その店で買おうと思います。
買うものを選ぶときも、信頼できるプロからのアドバイスだったら、参考にしたいと思えます。
私達も、そんな仕事を心がけたいと思っています。