陶器と便器のお話。

 日本に、陶器の便器を作っている企業って、どれくらいあるのでしょう。
 まっさきに思い浮かぶのが、TOTOINAX(現LIXIL)ですが、そのほかとなると、地域や業態が違うところで、実際にはいろいろとあるのでしょうが、日本中、誰でも知っているメーカーさんといえば、上にあげた2社でしょうか。

 ここでは、TOTOINAX(現LIXIL)が大きいとか有名とか、そういう話がしたいわけではありません。世の中にはいろんな商品があり、その商品を製造販売する同業企業はたくさんあるのに、どうして陶器の便器製造には、新規参入してくる企業が少ないのだろう、ということについてお話したいと思っています。

 TOTO本社横の小倉第二工場に、工場見学に行かれた方ならご存じだと思います。
 陶器って、焼くと縮むのです。
 そんなの当たり前、って思いがちですが、その、縮んだあとの出来上がり寸法が、どの商品も全部同じになるように成形するのって、すごく技術のいることなのです。
 その技術の裏付けとして、「こうしたら、こうなる。そうしたら、ああなる」という、経験に基づく、ものすごい量のデータの蓄積があるそうです。

 以前、カンブリア宮殿というテレビ番組で、TOTO㈱の社長が出演されていたときでした。スタジオの袖の方から、男性用小便器が3つ並んだ台車が運び込まれてきます。
 左から順に、
「粘土で成形したばかりの便器・成形したものを乾燥させたあとの便器・乾燥後、釜で焼き上げたあとの便器」
 と、説明されます。これと同じものが小倉第二工場でも展示されているのを見かけましたが、すらっと3つ、横に並んだ便器は、これが全部同じ製品になるのだとは、とても思えないほど大きさが違います。

衛生陶器は形状が大きく複雑なため重力の影響を受けやすく、部位ごとの収縮率がまちまちです。そのため、乾燥の過程で変形することを見込んで成形しなくてはなりません。この工程には、長年受け継がれた熟練の技が息づいているのです。

 以上は、TOTOホームページの衛生陶器ができるまでの「成形」欄に書かれている記事です。


 
 曲線だらけの便器、あちこちに穴や空洞があり、大きいから、それなりの重量がある。しかも釜で焼き上げるのに、かなりの時間が、かかります。

施釉された陶器はトロリー(台車)に載せられ、約24時間かけてトンネル窯の中をゆっくりと進んでいきます。
トンネル窯内の温度管理はもとより、トロリー(台車)へどのように積み込むかも熟練のノウハウが必要です。トンネルの中でゆっくりと熱を冷ますと、焼き上がりです。

 工場見学でここまで見て、これは本当にすごい技術なんだなぁと感心しました。
 私がはっきりと言ってしまえることではありませんが、これだけの歴史と経験と勘とノウハウが必要な製造技術は、なかなか真似できるものではありません。便器はとくに、品質の統一を求められる製品です。製造過程で形状が変わったら、水漏れ・詰まりの原因になりかねません。便器製造の最終課程として、厳しい検品に合格したものだけが、皆様のご家庭に届くのです。

 そういう長い歴史と数々の人の手を経て、いまご自宅に、鎮座まします陶器の便器。
 毎日を気持ちよく、ながーくご愛用くださいませ。